これは後期高齢者である私の父が若き頃のお話です。
私の父は祖母の意向もあり、実家に強制的に住まわされていました。その反動から旅が好きでした。バイクで北海道一周やら、登山やらをしてその写真が大量に残っています。
それを見た私が父に「一番ヤバイなーってことある?」と聞いたところ、父は苦笑い混じりでこの話をしてくれました。
それは父が気の合う友人と冬の北アルプスに登山をしたときのことです。
その日は天気も良かったのですが、山頂につく前に夜が更けてしまい、ビバークをすることにしました。
一緒に持ってきていた酒を飲み、さて、山頂にアタックするために寝ようかと思ったとき…。「こっちにおいでよ…」と、女の人の声がしたそうです。
父と友人はびっくりして飛び起きたそうです。
すると、「こっちにおいでよ…。酒も女もあるよ…」と、やはりか細い女の人の声が聞こえました。
友人はびっくりしながらも「行く?行かないか?」と、オロオロしながら聞いてきたそうですが…。
山に登るために来た父親は「いやー、ここで女遊びしてもなー」と、言って寝ることにしたそうです。
そんなこんなで一晩、か細い女の人の声がする中眠りについたのです。
そして、朝起きて、女の人の声がした方向を見た瞬間、父と友人は声を失いました。なぜならば…、そこは深い深い山の谷底。つまりはその女の人の誘いにのっていれば、間違いなく命はなかったでしょう。
怖くなった父と友人は山頂に登ったあと、別のルートで下山し、即座に家に帰ったそうです。
(宮城県 女性)