九州の長崎県五島での出来事でした。祖父母が住まうその島に、片親の私は母の手間を減らすためにも、夏休みに入ると毎年滞在してました。
クーラーもなかなか家にない45年程前の話です。まだ、姉や年上の従兄弟たちのように深い海では泳げない私を、祖父はある日、なだらかな起伏のある入江へ連れて行ってくれました。そこは祇園様と呼ばれ、豊穣や海の神様の祠がある入江でした。
浮袋片手に、泳げる喜びで一目散に海に入ろうとした私に、祖父が待ったをかけ、「ここは神様が祀られてる所。まずはお参りせないかん。」かなり信心深い祖父の言うことに、幼い私は、素直に従いました。そしてお参りを済ますと、さあ!泳ぐぞー!!と喜び勇んで海に入りました。
子供の足で膝くらいの深さの所まで来ると、太陽に反射して、海の中の石がキラキラ輝いてます。しかも手触りもツルツルで、あまりの綺麗さに、そ〜っと手に取り、「持って帰りたいなあ」と思っていたら、それを見ていた祖父が急に怒り出し、「ここの石やその他のものは、神様のものだから、絶対持って帰ったらいけん」といつになくキツい口調で言いました。でも、その時は、そのまま海に戻しましたが、どうしてもその石に惹きつけられて、私はそのままもう一度その石を手に取り、そっと隠して祖父母の家まで持って帰ろうとしました。
その時です。ツルツルしていた石の中に、尖った石が混ざっていたのか、足の裏をざっくり切ってしまいました。
慌てて祖父が私を抱えて家まで戻り、祖母に治療してもらったのですが中々血が止まりません。しかも原因不明の熱まで出てきて、1日体が痛くてたまりません。すると祖父が、「まさかと思うけど、祇園様の所から石を持って帰ってきてなかろうね?」と聞かれ、正直に伝えたら慌てて祖母がその石を取り上げ、家の前の海に投げました。
「これで(石などを持って帰ってきたために)、交通事故や、病気で急に死んだりするとよ!近所の娘さんも、車が急に突っ込んできて避けようとして海に落ちて死んだとよ!」と滅茶苦茶怒られました。しかし、海に戻したせいか、数時間もせず熱も下がり、足の傷も塞がりました。
祖父曰く、泳ぐ前にお参りしたこと、あと、私が幼い子供であった事で、神様が見逃してくれたんだろうとの事。
未だに何故なのかはわかりません。でも、ちゃんと神様はいて、私達のことを見守ってくれてるんだなと今でも思います。
(福岡県 女性)