三年前のことです。京都府の九階建てのマンションの5階に住んでいます。一つの階に七つ部屋があり、私は角の7号室です。引っ越した当初は、隣の6号室には三十歳前半の夫婦が二人暮らししていました。
エレベーターで出会うと、挨拶や他愛ない話をする関係で、親しみのある隣人でした。
二年ぐらい前に、仕事が終わりマンションに帰りエレベーターで5階に着いて降りると、大学生ぐらいの女の子が6号室の前に立っていました。
その女の子は私に気付いた様子もなく、6号室のドアの前でうつむいて立ったままでした。
顔を見ようにも、肩ぐらいまである髪が俯いた姿勢のために顔を隠して表情を伺うことはできません。その時は、隣人の親戚か何かと思って気にしませんでした。
後日、長引いた仕事が終わり、夜の十時頃にマンションに帰り、エレベーターで5階に降りると、以前に見かけた女の子が6号室の前に立っていました。
今度は私が降りたことに気付き、こちらに振り返りました。その顔には不安と焦りに満たされていました。
私に何かしてくるのかとも思いましたが、すぐに6号室に向き直り「なんで・・・なんでよ・・・」と呟いていました。
これはやばいと感じて、すぐに自室に戻りドアのカギを締めました。
何事もなかった、そう思って安堵しているとドアの外から「なんでよ!!」と大きな声が聞こえて、地団駄を踏む音がしました。
明日にはいないでくれと心の中で願い、キッチンを抜けて部屋に退散しました。
それから寝るまで二時間近く部屋で過ごしましたが、叫び声などは聞こえることはありませんでしたし、その日はそれ以降何も起きなかったと思います。
翌日、仕事に行くために部屋を恐る恐る出ましたが、その女の子はいませんでした。
それからしばらくその女の子を見ることはありませんでしたが、何故か隣人の夫婦にも会うことはありませんでした。
先ほどの出来事から一年後ぐらいでしょうか。買い物に行こうと部屋を出た時に、偶然隣の6号室のドアが開きました。久々に隣人夫婦に会うな、と思いましたが、次の瞬間背筋が凍りました。隣の6号室から出てきたのは、あの不気味な女の子でした。
思考が追いつかずに固まっていると、女の子の方から「こんにちは」と挨拶されました。
その表情には依然見た時とは違い、どこにでもいるようなかわいらしい顔でした。それから現在に至るまでその女の子は隣に住んでおり、隣人夫婦には会いません。
(京都府 男性)