私の勤めている会社の先輩から10年ほど前に聞いた話です。
電気機器を製造しているメーカーの設計部門で、電気設計、外装設計、メカ設計、生産技術など様々な部門が集結しており、1つのフロアには200名ほどが勤務しております。
発売の時期が近づいてくると、設計部隊全体が期限に追われるようになり、青天井に近い残業や休日出勤が始まり、昼夜、土日を問わず、設計の総仕上げとトラブル対策に追われる日々となります。
終電の時間を過ぎてしまうこともざらで、徹夜とならなかった日には準備されたタクシー券を使ってタクシー帰りを連日繰り返し、また翌日の朝10時には出勤するという地獄の日々が月から金まで続く状況となります。
そんなある日の深夜、社員も大方が退社してゆき、契約しているタクシー会社に迎車の予約を行って、最後にフロアーの最終点検を行う時間になりました。
大きなフロアーの端から端までPCや測定器の電源確認を行い、また各会議室の小部屋を1つ1つ回って、異常がないことを確認後、最終点検票にチェックを行った後、さぁ、照明を落とそうかと配電盤に向かったところ、フロアーの50mほど向こう側に、誰か電話を掛けている風な人影を目にして、目を凝らして確認したそうです。
深夜残業の時間なので明らかに最後まで残っていたのは男性社員のみだったはずなのが、遠くで電話で話しているその声は明らかに女の声であり、姿、髪形も女性だったそうです。
「誰か他に残っていますかー!?」との問いかけには全く反応せず、怖くなった残業メンバーは、逃げるように配電盤のスイッチを落とし、外に出たそうです。
照明を消されてもその女性は何も返事をすることもなく、その場に佇んでいたとのこと。
その話を聞いて以来、最終点検をするのが怖くなってしまいました。
そのフロアーでは一度だけ、問題対策のために一人きりで残って徹夜をしたことがありましたが、その逸話を先輩から聞かされる前だったのがせめてもの救いです。
それでなくても静まり返った無人のフロアーに一人で居たときは、冷静な気持ちでは居られませんでしたが…
(神奈川県 男性)