私が小学生の頃、自宅でミドリガメを飼っていました。名前はコロ。近所の公園のお祭りで亀すくいをして連れて帰ってきた小さな子亀が、数年の間に手のひらくらいの大きさまで育ち、私たち家族全員でかわいがっていました。特に祖母はコロにとても愛着を持っており、毎日エサをやりながら取り留めもないことを話しかけていました。祖母が声をかけるとコロは甲羅からすっと首を出してフムフムと話を聞いてあげているようにも見え、それは微笑ましい光景だったのを思い出します。ある日、祖母が脳卒中で倒れました。幸い命に別状はなかったものの、容体はあまり良くなくしばらく入院することになりました。自宅では祖母が入院生活になってからコロがあまりエサを食べなくなって痩せてしまい、私はどうしたものかと悩みました。亀は犬や猫のように鳴かないので体調や機嫌というものもわかりにくいのです。動物病院にも相談しましたが、季節的に涼しくなり始めているからだろうということで特に心配することはないと言われました。コロは日中泳ぐこともなく、甲羅を干すための陸の上でじっとしていることが多くなりました。そんな日が続いていたある日、祖母の容体が急変したという電話が病院からかかってきました。危篤状態にあるため緊急手術をするというのです。家族全員が病院に集まり眠れぬ一夜を過ごしました。明け方になり手術が終わり祖母は一命をとりとめました。私たちが安心して家に着くと、なんとコロが冷たくなっていました。きっとコロが祖母の身代わりになってくれたのでしょう。私は涙をこらえながらコロを供養しました。あの時コロに命を救ってもらった祖母は今も元気に暮らしています。本人もかわいがっていたコロが生かしてくれた命だからと、毎日庭の小さなお墓に手を合わせています。コロのことを思い出すと未だに胸が痛くなるのと同時に不思議な温かさを感じるのです。
(女性)